ピットブルは飼い主の人間を食べる?なんでも食べる噂の真偽と安全に飼う方法

ピットブルは飼い主の人間を食べる?なんでも食べる噂の真偽と安全に飼う方法

ピットブルについて、「飼い主を食べた」「人間でも何でも食べる」というセンセーショナルな見出しを目にしたことはありませんか?

アメリカン・ピット・ブル・テリアは、世界中で「危険な犬種」としてのレッテルを貼られ、メディアでも恐怖の対象として取り上げられることが少なくありません。しかし、このような説は科学的に正確なのでしょうか?本当に安全に飼うことは不可能なのでしょうか?

本記事では、ピットブルに関する噂の真偽を科学的視点から検証し、この力強くも魅力的な犬種を安全に飼育するための具体的方法を解説します。

目次

ピットブルの概要

ピットブル

ピットブルの正式名称は「アメリカン・ピット・ブル・テリア」です。19世紀頃、イギリスのスタッフォードシャー・ブル・テリアとブルドッグなどを交配して作られた犬種で、名前の由来は「ピット(闘犬場)」で「ブル(牛)」と戦うための犬という意味があります。

体格は中型犬に分類され、体高は約46~56cm、体重は約14~36kgです。筋肉質で引き締まった体つきが特徴的で、胸幅が広く深いため実際よりも大きく見えることがあります。短毛種で、毛色はブラック、グレー、ブラウン、ホワイト、黄褐色など多様なバリエーションがあります。平均寿命は8~14歳程度とされています。

性格面では、基本的に明るく無邪気で、人懐っこく、飼い主に従順、賢く、愛情深いという特徴があります。しかし同時に、警戒心が強く、興奮すると獰猛になることもあるという二面性も持ち合わせています。

注目すべき点として、ピットブルは日本のJKC(ジャパンケネルクラブ)には犬種として正式登録されていません。日本では、KCJ(日本社会福祉愛犬協会)などのNPO法人が血統証の発行を行っています。

世界的には、イギリスやヨーロッパの多くの国では飼育が禁止または厳しく規制されており、日本でも札幌市や水戸市などの自治体では「特定犬」として指定され、特別な飼育方法が義務付けられています。

ピットブルは飼い主を食べる?

「ピットブルが飼い主を食べた」という衝撃的なニュースは、時折メディアで報じられます。2017年にアメリカのバージニア州で、22歳のベサニー・スティーヴンスさんが自分のピットブル2頭に襲われて死亡する事件が発生しました。警察官が「これほど悲惨な現場を見たことがない」と証言したこの事件では、ピットブルが飼い主を「食い殺した」と表現されています。

事件の概要はこちら

また2024年4月には、ニューヨークのブロンクスで41歳の男性が自分のピットブルに頸動脈を噛まれて死亡するという事件も起きています。このような事件報道が、ピットブルに対する恐怖心を増幅させている一因です。

しかし、「ピットブルは飼い主を食べる」という表現は科学的に正確とは言えません。この表現における「食べる」という行為は、通常「栄養を摂取するために何かを咀嚼し、飲み込む」ことを意味します。実際の事件では、ピットブルが攻撃行動として人を噛み、組織を引き裂くようなダメージを与えることはありますが、これは「食べる」という行為とは本質的に異なります。

犬が人を攻撃する理由としては、以下のようなものが考えられます:

  1. 縄張り意識や序列争い: 犬が自分のテリトリーや資源を守ろうとする行動
  2. 恐怖や不安からの防衛反応: 脅威を感じた際の自己防衛行動
  3. 突発性激怒症候群: 「スプリンガー・レイジ・シンドローム」と呼ばれる脳神経の病気による突発的な攻撃性
  4. 痛みや病気: 身体的な痛みを抱えた犬が、接触に対して過剰に反応する場合
  5. 不適切な社会化やトレーニング不足: 子犬期に適切な社会化を受けていない犬は、攻撃行動を示すリスクが高まります

ピットブルの場合、闘犬として改良された歴史から、一度攻撃モードに入ると制御が難しくなる傾向があるとされています。これは「一度噛みついたら相手が降参のサインを出しても攻撃をやめない」という特性につながり、攻撃が始まると深刻なダメージを与えやすいのです。しかし、これは「食べる」行為とは異なる攻撃行動のパターンです。

人間でもなんでも食べる噂の真偽

「ピットブルは人間でもなんでも食べる」という噂は、犬の行動生態学の観点から見ると不正確です。科学的視点からこの噂の真偽を検証してみましょう。

まず、犬は本来肉食動物ですが、家畜化の過程で人間に依存する生態に適応し、人間を「食べ物」とは認識しなくなっています。犬が通常ではないものを食べる行動は「ピカ(異食症)」と呼ばれますが、これは栄養不足、退屈、ストレスなどが原因で起こるもので、人に対する攻撃行動とは全く異なる現象です。

実際の事件を詳しく分析すると、ピットブルが「人を食べる」というより、強力な顎と咬筋を使って深刻な咬傷を与える事例が報告されています。ピットブルの噛む力は100キログラム以上あるとされ、一般的な犬種をはるかに上回ります。さらに重要なのは、「一度噛みついたら相手が死ぬまで離さない」という特性です。通常の犬は相手が降参のサインを出せば攻撃をやめますが、ピットブルは闘犬として「負けを認めない」よう改良されたため、この自然な抑制機能が弱いのです。

メディア報道のバイアスも考慮する必要があります。ピットブル関連の事件は大々的に報道される一方で、他の犬種による事故は同様の注目を集めないことがあります。動物研究家のパンク町田氏は「同じ行動をプードルがしていたら『かわいい』と言うのに、ピットブルがやっていると『怖い』と思われる」と指摘しています。

しかし、統計データを見ると、ピットブルが関与する攻撃事故の割合は確かに高いです。アメリカでは2021年8月1日~2022年7月31日の1年間で400件以上の事故が報告され、そのうち約1割が死亡事故とされています。

日本でも「静岡県の足柄サービスエリアで4頭のピットブルがチワワを噛み殺した事件」や「横浜市で散歩中のピットブルが通行人の女性に襲いかかった事件」など、重大な事故が報告されています

結論として、「ピットブルは人間を食べる」という表現は科学的に不正確であり、誤解を招く表現です。実際の危険性は、ピットブルの強力な顎の力と、攻撃が始まった際の制御の難しさにあります。これは「食べる」という行為とは本質的に異なりますが、それでも無視できない危険性であることも事実なのです。

ピットブルを安全に飼う方法

ピットブルは適切なトレーニングと社会化、そして責任ある飼育環境のもとでは、愛情深く従順なペットになり得ます。以下では、ピットブルを安全に飼うための重要なポイントを3つ紹介します。

理由1:早期からの社会化と専門的トレーニングが不可欠

ピットブルを安全に飼うための最も重要な要素は、子犬期からの徹底した社会化と専門的なトレーニングです。

子犬期(特に生後3〜14週)は「社会化の臨界期」と呼ばれ、この時期の経験が成犬になってからの行動に大きく影響します。様々な人(男性、女性、子供、高齢者など)、動物、環境、音、状況に積極的に触れさせることが重要です。この時期に十分な社会化を行わないと、成長後に恐怖反応や攻撃性などの問題行動が現れるリスクが高まります。

また、ピットブルのような力強い犬種では、基本的なコマンド(「待て」「座れ」「伏せ」など)を確実に教えることが不可欠です。特に「待て」や「来い」などのコマンドは、興奮した状態でも行動を制御できるようにするために重要です。

トレーニング方法としては、ポジティブ・リインフォースメント(正の強化)を中心としたアプローチが推奨されています。罰や威圧に基づくトレーニングは、逆に攻撃性を引き出す危険があります。

専門家によれば、「小さな頃から主従関係をはっきりさせ、飼い主さんが絶対的なリーダーであると認識させる」ことが重要とされています。ピットブルの飼育経験が豊富なプロのドッグトレーナーに相談することも、強くお勧めします。

「犬の飼育経験がある人にも、ピットブルの飼育は容易ではない」という専門家の指摘があるように、この犬種特有の知識とスキルを身につけることが安全な飼育の第一歩です。

理由2:十分な運動と精神的刺激の確保が必須

ピットブルは非常に活動的で体力のある犬種です。十分な運動を確保することは、問題行動の予防に不可欠です。専門家によると、ピットブルは「最低でも朝晩1〜2時間以上の運動」が必要とされています。散歩だけでなく、ノーズワークなどの嗅覚を使った活動や、知育トイを使った精神的な刺激も重要です。

ピットブルは嗅覚に優れているため、臭いをつけた目標物を探し出すノーズワークなどの競技に向いているとされています。こうした活動は、単なる運動以上に犬の本能を満たし、ストレスを発散させる効果があります。

運動不足やストレスは、破壊行動や攻撃性などの問題行動の原因となる可能性があります。特にピットブルのような力強い犬種では、適切なエネルギー発散の機会を確保することが、安全な飼育の鍵となります。

一方で、ドッグランなど不特定多数の犬がいる場所では、トラブルの原因になる可能性があるため注意が必要です。ピットブルを連れて行く場合は、「ドッグランを貸し切りにする」「口輪を着用する」などの配慮が推奨されています。

体重30kgほどあるピットブル4頭をコントロールできなかった事例もあるように、この犬種の力と体力を甘く見ないことが重要です。

理由3:一貫したルールと明確なリーダーシップの確立

ピットブルのような力強く自己主張の強い犬種を飼う場合、飼い主が明確なリーダーシップを確立し、一貫したルールを設けることが不可欠です。

これは、暴力や過度の支配によるものではなく、犬にとって予測可能で安心できる環境を作ることを意味します。例えば、「家の中では走らない」「許可なくソファに上がらない」「食事は指示があるまで食べない」など、基本的なルールを設定し、一貫して守らせることが重要です。

また、家族全員が同じルールを適用することも非常に重要です。ある家族メンバーは甘やかし、別のメンバーは厳しく接するという状況は、犬に混乱を与え、問題行動を引き起こす可能性があります。

専門家によれば、「毎日の散歩でも、出会った犬とトラブルを起こす可能性があるため、散歩コースは慎重に選ぶ必要がある」「子供だけでの散歩はおすすめできない」と指摘されており、ピットブルの力と潜在的なリスクを常に認識しておくことが重要です。

家族として8年間飼育していたピットブルが突然攻撃して死亡事故を起こした例もあるように、長期間問題なく過ごしていても油断は禁物です。常に一貫したリーダーシップを維持し、犬の行動を適切に管理することが求められます。

まとめ:小さいときのしつけが重要

結論として、ピットブルは「人を食べる」危険な犬種ではありませんが、その力強さと特殊な歴史から、特別な理解と責任ある飼育が求められる犬種です。子犬期からの適切な社会化とトレーニング、十分な運動と精神的刺激、一貫したルールと明確なリーダーシップが、安全に飼うための鍵となります。

飼育を検討する際は、自身の経験と環境が適しているかを慎重に判断し、「初心者や子供のいる家庭、高齢者、多頭飼いを考えている人には向かない犬種」であることを念頭に置いて、責任を持って接することが何よりも重要です。

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