近年、ペットショップやブリーダーで「チワックス」や「マルプー」など可愛らしい名前で販売されるミックス犬の人気が急上昇しています。見た目の可愛さや珍しさという魅力に惹かれ、多くの人が家族に迎えています。
しかし、その裏側には知られざる問題や後悔する飼い主が少なくありません。この記事では、ミックス犬を飼う前に知っておくべき重要な情報や、実際に起きている切ないエピソードを詳しく紹介します。
ミックス犬とは?

ミックス犬とは、異なる純血種同士を意図的に交配させて生まれた犬のことを指します。雑種犬が「自然に交雑して生まれたもの」であるのに対し、ミックス犬は「人間が意図的に交配させて作り出したもの」という違いがあります。
特に、近年では、トイプードルとマルチーズの「マルプー」やチワワとダックスフンドの「チワックス」など、人気の純血種同士を掛け合わせた「デザイナードッグ」と呼ばれるミックス犬の人気が高まっています。これらは純血種同士の「良いとこ取り」という触れ込みで販売されることが多く、ペットショップでも多く見かけるようになりました。
ミックス犬は飼わないほうがいい?
ミックス犬を飼うべきかどうかは単純に「はい」か「いいえ」で答えられる問題ではありません。どんな犬を飼うにしても、その特徴や課題を理解した上で、最後まで責任を持って育てる覚悟が必要です。
ただし、多くの専門家がミックス犬の飼育について警鐘を鳴らしている事実があります。

ミックス犬には純血種にはない独自の課題があり、飼い主が後悔するケースも少なくありません。ここでは、飼い主が後悔する理由を3つの視点から説明していきます。
後悔する理由1 健康問題が懸念されている
第1に、ミックス犬は「純血種より健康」というイメージがありますが、親犬からそれぞれの遺伝的疾患を受け継ぐリスクがあります。特に異なる体格や特徴を持つ犬種同士の掛け合わせは、予期せぬ健康問題を引き起こす可能性があるのです。
例えば、小型犬では「進行性網膜萎縮症」という遺伝的な目の病気がトイプードルやヨークシャーテリアなどに見られます。これは網膜が変性・萎縮する病気で、最終的には失明に至ります。また、体格差の大きい犬種の掛け合わせでは、小さな体に対して重い頭や長い脊椎など、体のバランスが崩れることで関節や脊椎に負担がかかり、若いうちから痛みに苦しむ犬もいるのです。
キャバリア×ビション×プードルの「キャバプーション」などの複数犬種の掛け合わせでは、心臓病や膝蓋骨疾患の発症率が高くなるという報告もあります。特に遺伝子の不適合による問題は、生まれてくるまで予測が難しいのが現状です。
後悔する理由2 予想外の見た目に失望する
第2に、ミックス犬を飼う人の多くは、親犬の見た目の「良いとこ取り」を期待します。しかし実際には、どちらの親に似るかは生まれるまで分からず、成長するにつれて見た目や大きさが想像と大きく異なることがあるのです。
例えば、チワックスの場合、子犬の時は可愛らしい見た目でも、成犬になるにつれて顔つきが変わったり、体のバランスが崩れたりすることがあります。「こんなはずではなかった」と失望する飼い主も少なくありません。
また、チワプー(チワワ×トイプードル)は小型犬になる予定でも、7kgになるような個体もあり、想定より大きく成長することもあります。また顔立ちのバランスが悪くなることもあり、「ブサイクだった…」と感じる飼い主もいるのです。
後悔する理由3 しつけと管理が難しい
第3に、ミックス犬は親犬のそれぞれの性格特性を受け継ぐため、しつけが困難になることがあります。とりわけ、全く特徴や性格が異なる犬種を交配させた場合、純血種と同じようにしつけをすることが難しく、プロのドッグトレーナーの助けが必要になることもあるのです。
実際に、トイプードル×ビションフリーゼのミックス犬では、鳴き続けることが原因で10日間で飼育放棄されたケースもあります。親犬の性格が混ざることで、警戒心の強さや分離不安などの問題行動が現れやすくなることがあるのです。
活発な性格を持つミックス犬の場合、十分な運動量を確保できないと、ストレスから無駄吠えや家具を破壊するなどの問題行動が発生することもあります。これらの問題に対処するためには、一貫したしつけと適切な環境づくりが必要不可欠です。
ミックス犬のかわいそうなエピソード
ミックス犬の人気の裏側には、悲しい現実も存在します。金儲け主義の悪質なブリーダーによって、健康に問題を抱えた「失敗作」と呼ばれるミックス犬が数多く生み出されているのです。ミックス犬ブリーダーの元で働いていた人の証言によれば、子犬工場では次のような問題が発生しています。
- 問題1 体格差の大きい犬種の掛け合わせにより、母犬が出産時に命を落とす。
- 問題2 顎や体の部位、毛質など細かいところにズレが生じ、歯並びがガタガタになったり、体格に骨の太さが見合っていなかったりする。
- 問題3 生まれつき奇形を持って産まれた子犬が「失敗作」と呼ばれ、劣悪な環境で育てられる。

世界的に有名な例として「ラブラドゥードゥル問題」があります。オーストラリアの王立盲導犬協会でブリーディングマネージャーとして勤務していたウォーリー・コンロン氏が1989年にプードルとラブラドール・レトリーバーを交配させ「ラブラドゥードル」を生み出しました。しかし、その人気の高まりとともに金銭目当てのブリーダーによる乱繁殖が始まり、多くの健康問題を抱えた犬が生み出されました。
コンロン氏自身が「ラブラドゥードルを作り出したことは人生最大の後悔」と述べたように、本来良い意図で始まったクロスブリーディングが、商業主義によって歪められてしまう危険性を示しています。

遺伝子改良は最早止められない
ミックス犬に関する問題点は多々ありますが、現実としてミックス犬の繁殖は今後も続いていくでしょう。それは市場の需要と供給の問題だけでなく、犬の品種改良の歴史とも関係しています。
実は多くの現存する犬種も、元々は異なる犬種の掛け合わせから生まれました。ただし、現代の多くのミックス犬とは異なり、「数十年という年月をかけて作り上げられている」点が大きな違いです。適切な交配を何世代にもわたって行い、「求める特徴をある程度固定させた」結果、現在の犬種が確立されていったわけです。
しかし、現在のミックス犬の多くは「一世代限りの交配」で作られており、一代目と二代目以降では大きな違いがあります。具体的に言うと、二代目以降では盲目や難聴などの先天性の病気や奇形を持って生まれる(遺伝性疾患)リスクが高まる可能性があるのです。
まとめ:同じ命であることに変わりはない
ミックス犬を取り巻く問題は多いものの、すでに生まれてきたミックス犬には何の罪もありません。どんな犬も愛情と適切なケアを受ける権利があります。その上で、ミックス犬を飼う際には以下のポイントを心がけましょう。
- ミックス犬特有の健康リスクを理解し、定期的な健康チェックを行う。
- ペット保険への加入を検討する。
- しつけの難しさを理解し、必要に応じてプロのトレーナーに相談する。
- 見た目や大きさが変化することを理解し、どんな姿になっても最後まで責任を持って育てる。
また、新たにペットを迎える際には、ペットショップでの購入ではなく、保護団体からの譲渡も検討してみてください。すでに生まれて家族を待っている犬たちに新しい家族になることも、大切な選択肢の一つです。
最終的に、ミックス犬も純血種も同じ命です。飼い主として最も大切なのは、その子のことを理解し、責任を持って最後まで愛情を注ぐことではないでしょうか。どのような犬を選ぶにせよ、その決断には慎重さと覚悟が必要です。
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