ピットブルと聞くと、「最強の闘犬」「危険な犬種」という印象を持つ方が多いでしょう。実際に世界各国で事故や事件が報告され、日本でも一部の自治体で「特定犬」に指定されています。しかし、その一方で根強い愛好家も多く、「実は人懐っこく忠実」という評価もあります。
本記事では、ピットブルが怖い犬と言われる理由を徹底解説するとともに、その実態に迫ります。なぜピットブルには「怖い」というレッテルが貼られるのか、それは身体能力や歴史的背景、そして人間側の問題も大きく関わっているのです。
ピットブルの概要

ピットブルの正式名称は「アメリカン・ピット・ブル・テリア」です。アメリカで生まれた中型犬で、19世紀ごろにイギリスのスタッフォードシャー・ブル・テリアとブルドッグなどを交配して闘犬用に作られました。名前の由来は「ピット(闘犬場)」で「ブル(牛)」と戦うための犬という意味があります。
体格は中型犬に分類され、体高は46~56cm、体重は14~36kg程度です。筋肉質で引き締まった体つきが特徴的で、胸は幅広く深いため実際よりも大きく見えることがあります。短毛種で、毛色はブラック、グレー、ブラウン、ホワイト、黄褐色など様々なバリエーションがあります。平均寿命は8~14歳程度とされています。
注目すべき点として、ピットブルはアメリカンケネルクラブ(AKC)やジャパンケネルクラブ(JKC)には犬種として登録されていません。日本では、NPO法人日本社会福祉愛犬協会(KCJ)が血統証の発行を行っています。このことは、ピットブルの位置づけが他の一般的な犬種とは異なることを示しています。
ピットブルが怖い犬と言われる5つの理由
ピットブルが「最も危険な犬種」と言われるのには、単なる偏見だけでなく歴史的・生物学的背景があります。また、メディアの報道姿勢や人間の飼育環境も大きく影響しています。ここでは、ピットブルが怖いと言われる5つの主要な理由を詳細に分析します。
理由1:闘犬としての歴史と圧倒的な身体能力
第1に、ピットブルは闘犬として誕生した犬種であり、その遺伝的特性には闘争本能が組み込まれています。19世紀のイギリスで闘犬が盛んだった時代に、ブルドッグの力強さとテリアの俊敏性を兼ね備えた犬として改良され、アメリカに持ち込まれて現在のピットブルとなりました。
特筆すべきは、その身体能力の高さです。中型犬でありながら、全身が発達した筋肉で覆われ、特にアゴから首にかけては極めて強靭です。噛む力は100キログラム以上あるとされ、一般的な犬種をはるかに上回ります。
さらに重要なのは、「一度噛みついたら相手が死ぬまで離さない」という特性です。普通の犬は争う場合でも、相手が降参のサインを出せば攻撃をやめますが、ピットブルは闘犬として「負けを認めない」よう改良されたため、この自然な抑制機能が弱いのです。この生物学的特性は、悪意がなくても一度興奮すると制御不能になりやすいという危険性につながります。この点が他の犬種とは決定的に異なる部分です。
理由2:二面性のある性格と予測困難な攻撃性
第2に、ピットブルの性格は、その二面性にこそ危険性があります。基本的には明るく無邪気で遊ぶことが大好き、人懐っこく飼い主に忠実という面があります。驚くべきことに、子供に対して異常なほどの優しさを見せ、かつては「子守り犬」として知られた時期もあったほどです。
しかし、その一方で「一度興奮したら止められない獰猛な部分」も併せ持っています。この二面性こそがピットブルの危険性を高めているのです。通常は友好的に見えても、ある”スイッチ”がはいると突然攻撃的になることがあります。
最も懸念されるのは、「何がスイッチとなるのか、どうしたら止められるのかはわかっていない」という点です。長年飼育していて問題なく過ごしていたピットブルが、ある日突然攻撃的になるケースも報告されています。2022年10月にはアメリカで、8年間ペットとして飼っていたピットブル2頭が、生まれたときから一緒に育った2歳と5ヶ月の姉弟を突然襲い死亡させるという悲劇が起きました。
この予測困難な攻撃性は、他の犬種とは一線を画し、「怖い犬」というイメージを強化する大きな要因となっています。
理由3:世界的な規制と事故統計
第3に、ピットブルの危険性は各国で認識されており、イギリスやヨーロッパの多くの国では飼育が規制または禁止されています。イギリスではピットブルを含め、ピットブルに外見が似ている犬種の飼育、販売、譲渡、繁殖などすべての行為が禁止されています。
アメリカでは2021年8月1日~2022年7月31日の1年間だけで400件以上の事故が報告され、そのうち約1割が死亡事故です。この数字は他の犬種と比較しても圧倒的に多いとされています。日本でも、札幌市、水戸市、茨城県、佐賀県などの自治体では「特定犬」としてピットブルを指定し、脱走防止のための頑丈な犬舎での飼育や標識シールの掲示を義務付けています。
これらの規制や統計は、単なる偏見ではなく実際のリスク評価に基づいていることを示しています。他の犬種では見られないほどの規制が設けられている事実は、ピットブルの潜在的危険性を裏付けるものと言えるでしょう。
理由4:専門的トレーニングの必要性と一般飼育の難しさ
第4に、ピットブルは「飼い主がカギ」と言われるほど、飼育者の責任と技術が求められる犬種です。普通の飼い主ではコントロールが難しく、専門的なトレーニングが必須と考えられています。
重要なのは、「犬の飼育経験がある人にも、ピットブルの飼育は容易ではない」という専門家の指摘です。闘争心の強いピットブルを安全に飼うには、「小さな頃から主従関係をはっきりさせ、飼い主さんが絶対的なリーダーであると認識させる」必要があります。また、高い運動能力を持つため、1日2回、1回1〜2時間ほどの散歩など、十分な運動量の確保も必要です。

体重30kgほどあるピットブル4頭をコントロールできなかった事例や、家族として8年間飼育していたピットブルが突然攻撃して死亡事故を起こした例など、経験豊富な飼い主でも完全にコントロールすることの難しさを示す事例が多数報告されています。この専門的知識と経験の必要性が、「怖い犬」というイメージを強化する一因となっているのです。
理由5:メディア報道による恐怖心の増幅
第5に、ピットブルの危険性は、メディア報道によって増幅される側面もあります。事故や事件が発生すると大々的に報じられ、「ピットブル=危険」というイメージが強化されます。
興味深いのは、パンク町田氏のような専門家が「同じ行動をプードルがしていたら『かわいい』と言うのに、ピットブルがやっていると『怖い』と思われる」と指摘している点です。つまり、同じ行動でも犬種によって人間の認識が異なるという現象が起きています。
しかし、メディア報道が全て誇張というわけではありません。実際に日本でも「静岡県の足柄サービスエリアで4頭のピットブルがチワワを噛み殺した事件」や「横浜市で散歩中のピットブルが通行人の女性に襲いかかった事件」など、重大な事故が発生しています。
メディアによる報道は一面的な側面もありますが、実際の事故統計と合わせて考えると、ピットブルの危険性を社会に知らせる役割も果たしていると言えるでしょう。
ピットブルの恐ろしい画像・写真まとめ
それでは、ピットブルの恐ろしさがよく伝わる画像と写真を紹介します。小さいときは、こんなにかわいい犬なんです。まさに、この天使があんなに力強い成犬になるなんて想像もできませんよね。




本当は優しい犬なのか?
ピットブルは本当に恐ろしい犬種なのでしょうか。それとも誤解されている側面もあるのでしょうか。専門家の意見や実際の飼育者の声から、その実態に迫ります。
動物研究家のパンク町田氏は「ピットブルといっても、血統が違うと全然違う」と指摘し、「知識のある人から購入して、知識のある人にトレーニングを教われば、何も危険はない」と述べています。同じピットブルでも、個体や血統によって性格が大きく異なることを強調しています。

ニューヨークに住むピットブル飼い主のマホさんは、ピットブルの良い点として「比較的健康で持病が少ない」「短毛で匂いが少ない」「必要な運動をさせていれば家の中ではカウチポテト犬にもなる」などを挙げています。また「人間が大好きになるように改良されているので、人間と仲良くなることが本当に得意」とも述べています。
ピットブルの愛好家たちは、その「優しく愛情深い部分をこよなく愛している」とされており、適切なトレーニングと社会化を行うことで「社交的で人懐っこく、家族との絆を大事にする犬になる」と主張しています。
しかし一方で、動物行動学の専門家である高倉はるか氏は「普通の家で飼うには危険すぎる」と警告し、特に「子どものいる家は絶対に飼わないほうがいい」と断言しています。これらの専門家や飼い主の意見から見えてくるのは、ピットブルには確かに友好的で愛情深い側面がある一方で、その潜在的な危険性は否定できないという現実です。飼育には専門的な知識と経験が必要であり、安易に飼うべき犬種ではないと言えるでしょう。

まとめ:人間のエゴで支配してはいけない
ピットブルが「怖い犬」と言われる理由には、その歴史的背景、圧倒的な身体能力、予測困難な攻撃性、世界的な規制と事故統計、そして専門的トレーニングの必要性という5つの要因があります。
ピットブルは本来、人間によって闘犬として改良された犬種です。その強さや闘争心は、人間のエゴによって作り出されたものとも言えます。にもかかわらず、その性質ゆえに恐れられ、時に差別されるという皮肉な状況にあります。
大切なのは、ピットブルを「怖い犬」と一括りにするのではなく、その歴史と特性を正しく理解し、責任ある飼育を行うことです。飼い主としては、ピットブルの力と攻撃性を過小評価せず、適切なトレーニングとしつけを行う必要があります。
特に強調すべきは、ピットブルを飼うことを検討している人は、自身の経験や生活環境が適しているかを慎重に判断することです。初心者や子供のいる家庭、高齢者、多頭飼いを考えている人には向かない犬種と言えるでしょう。
最後に、ピットブルは人間によって作り出された犬種であり、その性質も人間の責任です。「怖い犬」というレッテルを貼るのではなく、適切な環境と扱いによって、その本来の良さを引き出すことが私たち人間の役割ではないでしょうか。ピットブルの飼育を検討する際は、その特性を十分に理解し、責任ある判断をすることが何よりも重要です。
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